Interbrand 30th Year Initiative 02

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02 April 2014

異文化コミュニケーション

これからの インターナルブランディング



BRANDS HAVE THE POWER TO CHANGE JAPAN これからの日本ブランドの30年に向けて

02 異文化コミュニケーション

これからのインターナルブランディング


01

あなたの企業のダイバーシティは本物ですか グローバル化する日本企業、 ダイバーシティ化する人材 2 0 0 0 年 代に入ってから、日本 企 業の

グローバリゼーションは急速に進展しつつ ある。経済産業省のレポートによると、海外 に進 出している日本 企 業は 2 万 3351 社

に達し、海外での売上高は 199 兆円を超え

ている(2012 年時点)。国際協力銀行の 調査によれば、日本企業での海外売上比率

そんな時代の中で、日本企業における人材

のダイバーシティ化も、加速度的に進んで

いる。今回は、グローバリゼーションに伴い

人材のダーバーシティ化が進む日本企業で、 異 文 化コミュニケーションをマネージして

いくための有効な手法として、「インターナル

ブランディング」の活用とその要諦について 紹介する。

日本企業の売上高比率

は 2013 年度に既に 37%に達している。

グローバリゼーションを加速させている 主役のひとつが M&A だ。2011 年の武田 薬品工業によるメイコナッド社買収(約 1

兆 1000 億円)、 今 年のサントリーによる

53%

37%

ビーム 社 買 収( 約 1 兆 6500 億 円 ) は、 もはや例外的な事例ではない。日本企業の 売上高の半分が海外になるのもそう遠くない 将来の話かもしれない。 2

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■ 海外売上高

■ 国内売上高

2013年度 国際協力銀行調査による


Japan’s Best Global Brands 2014 TOP10 Brands における連結海外売上高比率 2014 Rank

Brand

Sector

ブランド価値 (US m$)

連結海外 売上高比率

(2012年度実績)

1

Toyota

Automotive

35,346 *

75%

2

Honda

Automotive

18,490 *

83%

3

Canon

Electronics

10,989 *

79%

4

Sony

Electronics

8,408 *

68%

5

Nissan

Automotive

6,203 *

78%

6

Nintendo

Electronics

6,086 *

67%

7

Panasonic

Electronics

5,821 *

48%

8

Lexus

Automotive

2,743

75%**

9

Toshiba

Diversified

2,332

55%

10

Nikon

Optical

2,215

86%

*"Best Global Brands 2013"にランクインした上位7ブランドは、"Best Global Brands 2013"のブランド価値評価金額を適用しています。 **Lexusの海外売上高比率はトヨタ自動車の数値。

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人材のダイバーシティ化によって 陥りやすい罠 以下のような話を聞いたり、経験したこと

はないだろうか。

●日本 国内で時 間やコストをかけてつくり

あげた経 営ビジョンを、 海 外の外 国 人 社

員に披露したところ、理解や共感どころか、 猛反発を生んでしまった。

●日本本社が大切にしてきた経営理念や行

動規範を外国人社員に伝えるために、翻訳

したものをブックやムービーなどで配ったが、

成長してきて、そろそろその国のリーダーに

なってもらえると期待していた矢先に、退職

されてしまった。

どの事例も、海外拠点との連携強化、海外

企業との合併や提携、外国人の現地・新卒

採用の拡大によってダイバーシティ化が進ん

だ多くの日本 企 業に散 見される話である。 なぜこのような齟齬が生まれるのだろう。

「人材のダイバーシティ化」を、単に「育っ た国が異なる人材の増加」ではなく、「価値

観の異なる人材の増加」と捉えれば、これ

全く伝わらなかった。

らの現 象が、 海 外 拠 点や外 国 人 社員間に

●経営理念やビジョン、行動規範を伝えた

も、日本人中心の組織であっても起こり得

後は、各国の事情も考慮し、良かれと思っ

て現地の自主性に任せていた結果、期待し

ていたような具体的な活動とならずに盛り 上がらなかった。

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●海外拠点の有望な外国人社員が順調に

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限らず、M&Aの相手先が日本企業であって

ることに気づくだろう。メーカーと販 社の


間や、 業務用部門と家庭用部門の間などで、 実際にそうした経験をお持ちの方も多いの

ではないだろうか。

国内拠点

では、「価値観の異なる人材の増加」を放

メーカー

販社

端的に言えば、「価値観の異なる人材の

業務用

家庭用

部門

部門

置するとどのような問題が生じるのだろうか。

増加」は組織の停滞を引き起こす要因となる。 なぜなら「経営理念」 「経営ビジョン」 「行

動規範」という、その会社の存在として寄っ

て立つ、根源的なベースが、経営と各国に 散らばる社員間で共有されない限り、組織内

に相互理解や共感は醸成され得ないからだ。

海外拠点

自分の会社がどこに向かっているのかが判然

としなければ、個々人としてのアイデンティ ティやロイヤリティ、コミットメントも生ま

れにくく、優秀な人材ほど転職してしまうと

いう問題も起こりうる。

人材のダイバーシティー化による 組織のセクショナリズムの構図

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真のダイバーシティを獲得するために 一方で、国籍もバックグラウンドも非常

に多彩な人材で構成され、個人が備えている

に日本的な考え方ができるかどうかで外国

人社員をふるいにかけており、人材のダイ

バーシティ化のメリットを享受できていない

文 化や考え方もダイバーシティそのもので

ことが多い。それでは日本人だけの企業と

ブ ランドの 多くで は、このような 問 題 は

真 のダイバーシティを実 現した 欧 米 の

あるコカ・コーラやP&Gなどのグローバル

起こっていない。ダイバーシティ化に悩む

多くの日本企業と、彼らとの差はどこにある

のだろうか。

ひとつ 明らか なのは、 彼らに共 通 する 要 素は、 個 人の多 様 性を肯 定すると同 時

に、組織としての価値観も社員間に浸透し

ている点である。プレミアムな製 品を担当 する者、エコノミーな製品を担当する者な

ど、題材や市場は違えども、仕事の進め方

という視点でみれば、その会社らしい思考

の仕方やプロセスは一貫しているのである。 それが、市場の変化に対して、常に自身や

組織を対応させる柔軟性につながり、時に

は他社に先駆けて革新的な製品で新市場を

つくりだす源泉になっているのだ。

一見、外国人社員が多いグローバル企業

で あっても、 そ れ だけで「 真 の ダイバ ー

シティ」化が達成できているとは言えない。 日本には、価値観が日本人化している外国 人社員ばかりが定着している「似非ダイバー

シティ」企業が少なくないからだ。

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こういった企業では、知らず知らずのうち

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なんら変わらないだろう。

先進的グローバルブランドでは、ブランディ

ング、とりわけ、インターナルブランディング

(ブランドの社 内 浸 透 )のメソッドを積 極 的に活用している。

次 に、 その 考え 方 や取り組 みについて 記述していく。


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02

ダイバーシティを超越したブランドの約束 いかに、ブランドの約束に従って、社員が

止めるべきである。

インターブランドでは、ブランドの約束を

2つ目は、日本での問題意識や文化を前提

明文化したものを 「ブランドプロポジション」

と呼び、ブランドマネジメントの最も重要な

にして「ブランドプロポジション」をつくって

しまうことである。たとえば、 「母親だけでな

ツールであると考えている。

く、父親にも育児参加を促そう」という趣旨

おいては、特に「ブランドの約束が明瞭で

では適切だとしても、グローバルに本格展開

の約束に従った意思決定や行動を自律的に

なる国では理解や共感を得られにくいことが

その上で、インターナルブランディングに 社員に理解・共感されること」と、「ブランド 行うこと」の2点を重視している。

「ブランドプロポジション」は、グローバル 視点で、シンプルかつわかりやすいもので あること ブランドの 約 束 やビジョン等 が 海 外 の

外国人社員に理解・共感されない場合、その

のブランドの約束をつくってしまうと、日本

する段になると、育児に対する価値観が異

起こり得る。多くの企業で多用される「エコ」

という表現も、何を環境問題と捉え、どの ような解決手段が環境に良いかの解釈は国

によってさまざまであり、日本の事情を前提

とした内容では、ダイバーシティが進展する 社内での浸透は覚束ないだろう。

上述の2点は、 「ブランドプロポジション」

主な理由は2つある。1つは、日本での製

で「 何を」 言うのか、についてのポイント

プロポジション」をつくってしまうことで

ように」言うのかも重要なポイントである。

事業展開していても、海外ではその一部の

することが必要である。

もよくある。日本国内での事業認知を前提

げる「ブランドプロポジション」は、フォー

品・サービス領域を前提にして、「ブランド

ある。日本国内でさまざまな領域に幅広く みを 展 開しているということが 大 企 業 で

としてブランドの約束をつくると、事業の一部

のみを展開している海外の社員にとっては、

だが、「何を」が決まった後、それを「どの

その際、表現自体をシンプルでわかりやすく 欧米の先進的なグローバルブランドの掲

カスされるべき点が明 瞭でシンプルにまと

まっているものが多い。そうしたグローバル

その国での実態との乖離が大きく、「ブランド

ブ ランドでもあり日 本 人 にもなじみ 深 い

ないことが多い。説明を重ねて理解を得ら

“ SCSE ” も、そのひとつだ。

プロポジション」への理解や共感を得られ れるケースもあるが、そうまでしないと理解

が得られない約束は、ブランドマネジメント 8

ツールとしてきちんと機能していないと受け

自律的に考え行動する組織をつくるか

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ディズニーランドのブランドの約 束である この4つ の アルファベットは そ れ ぞ れ “Safety”( 安 全 )、“Courtesy”( 礼 儀


正しさ)、“Show”(ショー)、“Efficiency”

( 効 率 ) を表している。ノンネイティブで も理解できる簡単な英単語で、ディズニー

ランドのブランドの約束を説明し、この単語

の順番自体がブランドの約束の優先順位を 表している。

Safety(安全) Courtesy(礼儀正しさ) Show(ショー) 低

Efficiency(効率)

ブランドの約束の優先順位

ディズニーランドの SCSE

ハイコンテクストカルチャーとローコンテ

クストカルチャーという言葉を聞いたことが

あるだろうか。前者は、言葉そのものより 文脈や相手の感情等から内容を読みとろう

とする文化で、日本が該当すると言われて いる。後者は言葉そのもので意思を明確に

することを重 視 する文 化で、 欧 米 諸 国 が 該当すると言われている。日本企業の組織

内でダイバーシティ化が進むということは、 組織のローコンテクストカルチャー化が進む

ということでもある。上記ディズニーランド

のようなシンプルでわかりやすい表 現 は、 それに対処する好例と言えるだろう。ダイ バーシティ化した組織では、言葉に対して 今以上に敏感になるべきである。

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ブランドの約束を明文化するだけでなく、 それに基づく思考や行動も「見える化」する

も進みやすくなるという効果も担っている。

次に重要なのは、「ブランドプロポジショ

一部社員によるこうした集中討議に併せて、

ン」に従った意思決定や行動がなされるこ

ブランドの約束に従った行動を「見える化」

ンドプロポジション」に基づいた意思決定

として、先述のディズニーランドの表彰制度

はじめてタッチポイント上に一貫したブラン

営業成績や研 究開発に関する表彰制 度

とである。なぜなら、日々の業務で「ブラ や意思疎通をし、具体的に行動することで

する取り組みも行うべきである。その事例 を紹介しよう。

ド体験が実現するからだ。

を取り入れている企業は多いが、ブランドの

でわかりやすく」が理想だが、実際にはそ

その中で、ディズニーランドでは、ブランドの

むために、解釈の幅が広く冗長かつ抽象的

リットオブ東京ディズニーリゾート」(キャ

そうなると、ブランドの約束の解釈やそれに

と「ファイブスター 」( 上 司 が キャストを

「ブランドプロポジション」は「シンプル

の実現は難しく、関係各所の意見を盛り込

な表現となっているケースもよく見かける。 基づく行動がズレたり、自分の業務に結び

つけられない社員も増えるだろう。一貫した

ブランド体験を実現するためには、解釈や 行動の足並みを揃えることが重要になる。

そのために、インターブランドでは、ブラ

約束実現の観点が入っているものは少ない。 約束である SCSE を評価基準とした、「スピ

スト同士が互いの行動を認め称え合う活動)

リアルタイムで褒め称える)の2つの取り組み

を続けている。ここで大切なのは、表彰に

よるモチベーションアップだけでなく、この

活動がブランドに従った行動の「見える化」

である点だ。

ブランドブックやビデオの配布だけでは、

ンドの約束を明文化した後で、各部門から

ブランドの約束が社員の意志決定や行動に

の業務を結び付ける集中討議を行う。ブラ

企 業 が 気 付 いている。ブランドに 従った

キーパーソンを集め、ブランドの約束と普段

ンドの 約 束 の 体 現 事 例 を集 めたり、アイ デアを出し合ったりすることで、ブランドの

約束に従って考えることの「気づき」を得て

なかなかつながらないことは、 既に多くの

行動の 「見える化」 により、一部の組織や 個人の価値観ではなく、ブランドの価値観

に基づいた行動を促すことがますます重要

もらうのだ。

となるだろう。

討議の参加者は、ブランド活動を推進する

方や行 動を押し付けるのではなく、あくま

忘れてはいけないのは、杓子定規的に考え

中心メンバーになることが多い。海外の外国

でも個人の文化や価値観を尊重することで

会 議を日常 行っていてもフェイストゥフェ

の約 束から逸 脱しない範 囲で、 考え方や

人社員との協働において、Eメールや電話

イスの重要性は変わらないが、こうした場

などで、一度顔を合わせ議論した相手とは、 部門の枠を超えた協働もしやすくなり、レス

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ポンスのスピードUP、情報や知識の交換

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ある。「真のダイバーシティ」は、ブランド 行 動 の 深 掘りや幅 の 広 がりを大 切 にする 企業姿勢から生まれるのである。


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03

ダイバーシティな社内に向けてのブランディング 如何に、優秀な人材をつなぎとめるか 最後に、もう1つ、ブランディングメソッド

の活用法を述べる。それは、顧客に対して 行っているブランディングのノウハウを社員

に対しても使い、ブランドに魅力や誇りを感

じてもらうことである。

顧 客に対するブランド体 験は手 厚いが、 社員のブランド体 験は手つかず、という日 本企業は少なくない。一方、先進的な欧米

企業では、オフィス空間をブランド体験の

場と捉え、ブランドの約束に従って定めた

ビジュアルのルールなどをオフィスの色彩や

レイアウトに活用したり、社員の動線上の 至るところでブランドメッセージが目に触れ

るようにしている。オフィスだけでなく、イン

トラサイト等のデジタル空間も顧客に対する のと同 様にインターナルブランディングの 重要なチャネルとして重視している。

ブランディングの要諦は、商品やサービス

の 情 緒 的 価 値 を 向 上 させることにある。 なぜなら、 価 格などの機 能 的な理 由で選

ばれていると、他社がそれ以上のスペックを

実現すれば容易に顧客はスイッチしてしまう

が、ステータス感などの情緒的な理由で選 ばれれば、そもそも真似されにくく競争優位 性を保てるからだ。社員に対するインター

ナルブランディングも同様である。職場として、 報酬などの機能的な理由ではなく、プライド

などの情緒的な理由で選ばれれば、最終的

に優秀な人材をつなぎとめられるだろう。

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External Factors 社外 6 指標

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Authenticity(信用力)

Consistency(一貫性)

Relevance(適合性)

Presence(存在感)

Differentiation(差別性)

Understanding(理解度)

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さらに、社員とブランドの結びつきやイン

「適合性」(職場に対する社員ニーズの合致

して、インターブランドのブランド価値評価

やりがい)、「一貫性」(職場での一貫した

ターナルブランディングの進捗を測る指標と

メソッドの1つであるブランド力分析を活用

度)、「差別性」(この会社でしかできない

ブランド体験)、「存在感」(働きたい会社と

できる。

しての社会的評価)、「理解度」(所属部署

ブランド力分析は「将来にわたるブランド

社員の意識を測るのである。

利益の確かさ」を測るものだが、同時にブラ

だけでない会社全体の理解)、などの視点で

ンドロイヤリティの強さを測ることもできる。

本稿では、ダイバーシティ化している日本

ズと合致しているかを評価する「適合性」、

その解決策としてダイバーシティが先行して

この分析の評価には、ブランドが顧客ニー

企 業に見られる現 象とその問 題を指 摘し、

競 合と異なるポジションを有しているかを

いる欧米企業のインターナルブランディング

指標で社員の意識をみれば、社員のブランド

真のダイバーシティ化を実現するための取り

評価する「差別性」などの指標がある。この ロイヤリティの強さを測ることができる。

たとえば、 「信用力」(会社に対する信頼性)、

に対する考え方や取り組み事例を紹介した。 組みに加えていただきたい。

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インターブランドジャパン 田中英富 Executive Strategy Director 小牧 功

Strategy Director

ジェイソン・ヒギンズ Senior Consultant 村松友希 Senior Designer インターブランドについて インターブランドは、1974 年、ロンドンで設立された 世界最大のブランドコンサルティング会社である。世界 27 カ国、約 40 のオフィスを拠点に、グローバルでブランド の価値を創り、高め続ける支援を行う。インターブランド の「ブランド価値評価」は、ISO により世界で最初にブラ ンドの金銭的価値測定における世界標準として認められ、 グローバルのブランドランキングである “Best Global Brands” などのレポートを広く公表している。 インターブランドジャパンは、ロンドン、ニューヨーク に次ぐ、インターブランド第 3 の拠点として、1983 年、 東京に設立された。ブランド戦略構築をリードするコンサ ルタント、ブランドのネーミング、スローガン、メッセー ジング、ロゴ・パッケージ・空間・デジタルのデザインを 開発するクリエイターが在籍し、さまざまな企業・団体に 対して、トータルにブランディングサービスを提供している。 著書「ブランディング7つの原則」 (日本経済新聞出版社刊) http://interbrand.com/ja/


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