EUROPA STAR SPECIAL JAPON

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シチズン キャリバー 0100 1秒への挑戦

ジャパン ウォッチ レポート 三大メーカーの選んだ新戦略

特別編集:ヨーロッパスター、翻訳:クロノス日本版


カバーストーリー ス ポ ン サ ー ド コ ン テ ン ツ

シチズン

CALIBER 0100 1 秒の挑戦

日本ブランドであるシチズンは、世界で初めて、 年差± 1 秒以内の精度を実現する

3 種類の新作エコ・ドライブ腕時計を

年 4 月に東京でシチズングループの佐藤 敏 彦 社 長 に お 会 い し た 際、「Caliber

0100」はごく自然に話題の中心になり

ました。年差 1 秒という世界記録の精度を誇る

発表しています。これらの時計は、

Caliber( キャリバー)0100 は、この日本ブランド のマイルストーンとなっています。

高精度の計時の研究開発における

「Caliber 0100 は、シチズンが世界に誇れる高い

シチズンの長きにわたる伝統を活用しており、

技術力を示しています」と佐藤敏彦氏は簡潔に述べ

Caliber 0100 は、1975 年の当時でさえ

ました。「私たちは数年前にこのプロジェクトを開

年差± 3 秒の精度を実現していた

始 し、 今 年 よ う や く 発 表 に 至 り ま し た。Caliber

0100 は、40 年以上の歴史を持つエコ・ドライブ

クリストロン・メガ 1975 を継承しています。

の歴史をそのまま継承しています」

このカバーストーリーでは、

現在、世界的に機械式腕時計が注目され、それと

こうした画期的な技術と、

同時にスマートウオッチが台頭している状況である にもかかわらず、シチズンはクオーツ時計の精度に

洗練されたエレガントな時計の美しさを、

関する研究を決して放棄することなく、常に光発電

『ヨーロッパスター』誌のアーカイブにある

のエコ・ドライブ技術を用いています。念のために

シチズンの資料を使って紹介します。

補足すると、この技術の目的は、クオーツ時計の欠 点である電池寿命の短さ、電池交換の手間、電池廃 棄時の環境問題を解消することにあります。

シチズンによる 世界初の試み

2

1967

世界初の 水晶発振式 電子クロック 「クリストロン」

1972

世界初の 時報合わせ装置付 電子ウオッチ

1975

世界初の高精度 クオーツウオッチ 「クリストロン・メガ」

1976

世界初の アラーム機能付き 液晶クオーツ腕時計

1976

世界初の太陽光を 動力源とする アナログ式 クオーツ腕時計 「クリストロン ソーラーセル」


『ヨーロッパスター』1976 年 4月号

『ヨーロッパスター』1977 年 5月号

新しい Caliber 0100は、超高精度のク リストロン・メガ1975を継承しています。 『ヨーロッパスター』 の過去のアーカイブ では、±3 秒の精度を実現したこの先駆 的な時計に関する情報を閲覧できます。

『ヨーロッパスター』1977 年1月号

ホワイトゴールドモデル (AQ6010-06A) 年差±1秒の超高精度をシンプルな美しさの中に落とし込んだ限定版。 ケースとリューズは光沢のあるホワイトゴールドで作られており、高い精 度やシチズンの技術の結晶、 「純度の高い1秒」 へと帰結する 「クリスタ ル (=結晶) 」 をモチーフにデザインされています。ホワイトゴールドのケ ースに搭載されたCaliber 0100には、変色に強く、耐食性にも優れたブ ラックのルテニウムめっきと独自のストライプパターンが施されており、 サファイアガラスのケースバックからその姿を眺めることができます。秒 針の先端と、アイボリーの文字盤の縁は、お互いに求めあうように弧を 描き、インデックスにぴたりと重なる秒針の動きを際立たせています。ブ ラックのワニ革のストラップには同色の繊細なステッチがあしらわれてい ます。世界数量限定100本で、ケースバックにはシリアル番号が入ります。

1978

世界初の ムーブメント厚 1mm 未満の ムーブメントを 内包した腕時計

1980

世界最小の 女性用アナログ クオーツ式腕時計

1982

世界初の耐圧性 1300Mの ダイバーズウオッチ 「プロフェッショナル ダイバー1300M」

1985

世界初の エレクトロニクス 水深計付き ダイバーズウオッチ 「アクアランド」

1987

世界初の 音声認識ウオッチ

1987

世界初の 太陽電池充電式 コンビネーション ウオッチ

1988

世界初の 衝撃スイッチ機構 搭載デジタルウオッチ 「ショックセンサー」

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Caliber 0100は、8.4 MHz (8,388,608Hz) で振動する ATカット型の水晶振動子 を使用しています。

また、Caliber 0100 は、1 分に 1 回の周波

1970 年代のクリストロン・メガの継承  1975 年、クリストロン・メガは、年差 3 秒という記録破りの精度を実現することに成功

し、当時の『ヨーロッパスター』誌(前のペー ジを参照)に特集されました。

シチズンの研究開発チームは、電波塔や衛星 からのデータに頼らずに、どのようにしてこの 1 秒という新たな最高精度を実現したので

しょうか。

シチズンが説明するように、最初のステップ は、クオーツ時計で通常使用されている従来の 音

型水晶振動子に代わり、AT カット型水晶

は摂氏 5 度∼ 40 度で、世界のほとんどの地域 で最も通常使用に適した温度環境であると考え られています。また、新しい回路設計では、時

計の針の位置を自動補正する高い耐衝撃性と、 磁力の影響からムーブメントを保護するための

耐磁性能も備えています。これらの技術革新を 組み合わせることで、年差 1秒という圧倒的 な精度を実現しています。

そぎ落とされたデザイン  この技術革新のほかにも、Caliber 0100 が

で振動し、音

ザインに搭載されている点は大変興味深く感じ

型水晶振動子の 250 倍以上に

もなります。この新しい構造は、温度変化や重

力の影響などの外的影響や経年劣化に対して、 確実に耐性を維持します。

ただし、AT カット型水晶振動子を動作させ るには、より多くのエネルギーが必要です。こ

れを実現できたのは、使用する素材を徹底的に

吟味し、インテリジェントなデザインを使用し、 省電力戦略の管理の改善を実施したからだとシ チズンは説明しています。その結果、エコ・ド

ライブは Caliber 0100 技術により、光源がな い状態でも一度のフル充電で最大 6 か月間(省

エネモードでは 8 か月)、連続的かつ安定性が 大幅に向上した状態で駆動できるようになりま した。

世界初の電子高度 センサー機能搭載 プロフェッショナル 登山時計 「アルティクロン」

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り高い精度を維持しています。最適な動作温度

振動子を採用することでした。AT カット型水 晶振動子は 8.4 MHz(8,388,608Hz) の周波数

1989

数と温度変化のモニタリングと調整を行い、よ

1989

世界初の パーペチュアル カレンダー機能搭載 アナログクオーツ 腕時計

1992

世界初のアナログ 水深計搭載 ダイバーズウオッチ 「アナログ・ デプスメーター」

1993

決して派手さはないがエレガントなケースとデ

られます。また、感性や高級感をより重視する

傾向にある、現在の日本の時計づくりの変容ぶ りがうかがえます。一見したところ、この腕時

計の外観からは、世界初のテクノロジーが搭載 されていることなど想像もできません。

シンプルな秒針に合わせて、時計のデザイン も素朴で飽きのこないものになっています。シ チズンはこれについて、「Caliber 0100 は、1 秒の美しさを最も純度の高い形で表現してお

り、究極のシンプリシティを実現するために余 分な装飾を最小限に抑えています」と見事に言

い表しています。正面から見たときにインデッ クスにぴたりと重なる秒針は、文字盤の最大の 特長です。

世界初の マルチバンド受信 (日独英) 電波時計

1994

水深センサーと データ転送システムを 搭載した世界初の プロフェッショナル ダイバーズウオッチ 「ハイパー アクアランド」

1997

世界初の 年差±10秒の精度の 光発電式腕時計

1997

世界初のアナログ クオーツグランド コンプリケーション 腕時計


スーパーチタニウムモデル (AQ6021-51E/AQ6020-53X) AQ6021-51Eには、豊かな光沢を持つ金属製のブラックダ イヤルが備わっています。文字盤の素材は、表面に配置さ れた無数の微細な穴を通して光を取り込むようデザインさ れており、光と時の関係性を連想させます。AQ6020-53X には、自然界の膨大な年月を想起させる白蝶貝のダイヤ ルをあしらっています。長い年月をかけ形作られてゆく白 蝶貝の美しい文様を背景に、正確に1秒を刻み続ける秒 針の対比が、唯一無二の美しさを生み出します。年差±1 秒の高精度でなければ り着けない、悠久の時の中を過 ぎゆく一瞬を可視化させたデザインです。両モデルとも、 ケース、リューズ、そしてブレスレットのデザインには 「クリ スタル」 のモチーフを採用。様々な角度から施されたカット により、光の入射角度に応じて多彩な表情を描き出します。 長くご愛用いただけるように、素材にはデュラテクトαが 施されたスーパーチタニウム™を採用しました。それぞれ世 界数量限定で、ケースバックにはシリアル番号が入ります。

クモーターでは安定的に動かすことが困難だっ

た、長くて重さのある真鍮製のものを採用。こ れらの新しいモデルの特色であるシンプルで美 しい真鍮の針は、「高精度で 1 秒 1 秒を刻んで

純度の高さを伝える」というデザインコンセプ  それぞれの針の動きは、「純度の高い 1 秒」 を 目 に 見 え る 形 で 表 現 し て お り、 各 部 品 に

LIGA 工法(高アスペクト比微細構造物形成技 術)を採用することで実現されます。通常、歯 車やバネは切削加工やプレス加工で製造されま

すが、LIGA 工法ではより精緻な部品製造が可

能になります。LIGA 工法によって製造した、 カスタマイズされた形状のばねと歯車で構成さ

れた特殊な部品により、歯車のわずかな不整合 でも針の動きに影響を与えないようにし、針を インデックスに正しく重ねることができます。

針には、従来のクオーツムーブメントのトル

1998

世界初の 光発電式アナログ 水深計測機能付き ダイバーズウオッチ

2002

世界最小の ムーブメント 搭載腕時計

2006

世界初の Bluetooth 搭載腕時計

2011

世界初の 衛星電波時計

トを反映しています。

Caliber 0100 の組立は、シチズンの熟練の 時計職人である「マイスター」が担当していま

す。これらの熟練した職人たちがプロセスを監 督し、最高の品質と精度を実現しています。ま

た、取り付けが完了したら、秒針が 60 か所す べての位置でインデックスに正しく重なってい ることを確認します。

価格はチタニウムモデルが 7,400 ドル(白 蝶貝の文字盤のものが 200 本、黒の文字盤の ものが 500 本の数量限定)、ホワイトゴールド

モ デ ル が 16,800 ド ル(100 本 の 数 量 限 定 ) です。

2016

世界最薄の 光発電式腕時計

2017

世界初の飽和潜水 1000メートル防水 光発電式ダイバーズ ウオッチ

2019

世界で最も正確な 光発電式腕時計

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謎 日 め 本 い の た 若 者

分 析 S BY

ER

GE

MA

ILL AR

イコーが運営する商業施設、銀座・和光の時計塔

は銀座地区の象徴的存在であり、1 世紀近くにわ

たって刻々と時を刻んでいます。日本の大手時計

D

メーカーである同社は、その目と鼻の先にコンセプトスト アをオープンし、このシンボル的存在の時計をデジタルで

再現しました。このコンセプトストアも銀座全体も、中国 人購入者の割合が非常に高くなっています。日本は、中国 や韓国からの格安航空便の増加にともない、アジアの人気

旅行先になりつつあり、日本の古都である京都では、観光

20 ∼ 40 歳の日本人は、 好景気を経験した

親世代と比べて贅沢をしません。 将来のために貯蓄をしたり、

経験にお金を使うことを好みます。

欧米と同様、中流階級は不透明感に

支配されており、

高級品部門はこれに

適応しようとしています。

客の迷惑行為に対する住民の不満が高まっています。同市 には昨年、5500 万人の観光客が訪れています。

「中古時計店が多い大阪の街は、高級品の主な購買客が日 本人から中国人に移行したことをとても具体的に表してい る。1980 年にロレックスを購入していた日本人は今、中

国の若者がよく訪れるリサイクルブティックに自分の腕時 計を売っている」大阪大学教授のピエール = イヴ・ドンゼ 氏はこう述べています。

2 階建て住宅ではなく高層ビルが建ち並び、川沿いに緑

が広がる、より日本らしい雰囲気を体験するには、東京の 新しいトレンディー地区、代官山を訪れるのがおすすめで

す。Tissot(ティソ)は今年、この地に東京初となる自社 ブランドの店舗をオープンすることにしました。カフェや

デザイナーズショップに囲まれた場所で、スイスのシャ

レーの雰囲気を再現。自然の素材、洗練されたデザイン、 氷山の大きな写真などが、日本の「ソーホー」地区の美的

感覚とマッチしています。「日本では、品質が高いから値 段が高いという考え方は通用しません」ティソのマネー ジャー、マーティン・ゴーディアン氏は述べています。ティ ソは美しい構造に重点を置いていることから、新しい世代 の日本の消費者を引きつけたいと考えています。


Tissot Daikanyama Concept Store

支出に慎重な日本の 若い世代と中流階級

消費に関する批判的な見解  こうした新しい世代は、1980 年代にアジアでヨーロッパス タイルのラグジュアリーの全盛期を謳歌していた世代とは全

く違います。1980 年代は現代の景気過熱の中心となっている

「1980年にロレックスを 購入していた日本人は今、 中国の若者がよく訪れる リサイクルブティックに 自分の腕時計を 売っています」 ピエール =イヴ・ドンゼ 大阪大学教授

中国が台頭するより前の時代です。当時の日本は、現在の隣

国と同様、エレクトロニクスと自動車の製造の勢いによって 動かされていました。それが、デフレ・スパイラルに陥って

それでもなお、日本にはまだ多数の腕時計コレクターが存

「私の父親世代はとても派手でした。今の世代の日本人は消

日本の腕時計業界にとって、電子商取引は今のところ大きな

からというもの、日本経済は下り坂をたどっています。

費にあまり関心がありません。十分な年金をもらえる保証が ないので、若者は貯蓄を好みます。お金を使うとしても、よ

いレストランに行くなど、物ではなく経験に使おうとします」 日本のスイス時計協会 FH 東京センター所長の中野綾子氏はこ う述べています。

中野氏はさらにこう続けます。 「2012 年から政権の座にあ

る安倍晋三首相が打ち出した、アベノミクスとして知られる景

気刺激策が、所得格差をさらに拡大させています。中流階級

が苦難を強いられているため、手頃な価格帯の高級品セグメ

ントも苦難を強いられています。現在の日本では、中国人観光

客と、現行の経済政策の恩恵を受けている日本の富裕層とい

う 2 つの消費者層が中心となって高級品を購入しています」

その結果、スイス製腕時計の日本への輸出は 2005 年以降、 10 億ドル前後で停滞。増減はあるものの、力強い成長の兆し は見られません。

在し、いまだに専門メディアの地位が優勢となっています。 現象とはなっていません。

ランゲ 1 トゥールビヨン パーペチュアルカレンダーの新作

発表の際に東京でお会いした A.Lange & Söhne(A. ランゲ &

ゾーネ)の CEO、ウィルヘルム・シュミット氏も同意見であり、

「日本は当社にとって世界で最も重要なマーケットの一つであ

り、現在 2 カ所の直営店と合計 17 カ所の取扱店があります。 日本のコレクターは要求こそ厳しいですが、忠誠心がありま

す。精密さ、完璧さ、職人技に特に関心を持つ国がありますが、 日本も間違いなくその一つです」と述べています。

日本では、高級時計の販売に関しては、中国人観光客やア

ベノミクスの恩恵を受けているため懸念は少ないですが、エ

ントリーレベルとミドルレンジが懸念材料となっています。 実際、このセグメントは昔から若い世代や中流階級からの支 出に依存していますが、昨今の彼らは支出にかなり慎重になっ ています。

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世 ム 界 組 ーブ 最大 立 メ の 工 ン 場 ト

レ ポ ー ト

1 秒あたり 1 つのムーブメントを製造  1959 年に開始したシチズングループのムーブメントブランド

ミヨタ佐久工場はクオーツ時計の

キャリバーを毎秒 1 つ生産しています。

シチズングループのムーブメントメーカーは、 世界中に数多くのエントリーレベルの 腕時計ブランドを取り

えています。

私たちが訪問したこの工場では、

人間と機械の統合というアイデアを 極限まで押し進めていました。

窓からは長さ 50 メートルから 150 メートルまで

の組立ラインが数十本見えました。3 年前にオー プンしたばかりのミヨタ工場を訪れた私たちに

とって、まさに予想していたとおりの光景です。しかしそ のなかでも、一目見て驚いたのは、ラインで働く従業員の 数がきわめて少なく、全員がこの工場の景観に溶け込むよ

うに安全マスクを装着していたことです。私たちは「1 ∼

2 名のオペレーターで、生産ラインを管理できます」と説 明を受けました。

ここで人間が行う唯一の操作は、あるホールから別の

ホールへの部品の移動です。とはいえ、これもまもなく不 要になります。4 つの生産ルーム間の移動は、コンベヤー ベルトによる自動化が進められています。

8

は、各地の工場で年間約 1 億個のキャリバーを生産し、その大半 がクオーツ時計のキャリバーです。長野県佐久市には当グループ 最大の施設があります。

表面積 83,000 ㎡、この円形の建物は 2016 年に竣工しました。 200 名ほどの従業員が交代制で勤務し、1 秒あたり 1 つの速さで ムーブメントを製造しています。

ミヨタは、サードパーティーとシチズンブランドの両方に製品

を供給しています。ETA とは異なり、シチズンと競合する可能性 のあるブランドに対しても、納品制限を設けていません。

すべての作業を自社で実施  ミヨタの生産能力については、クオーツ時計のキャリバーの需 要が世界的に低下し、中国という強力な競争相手がいるにもかか わらず、増え続ける自動化により競争力を維持することができて

います。同社の目玉商品となっているのは 2035 と Super 2035 です。

佐久市の工場では、日本全国から集めた部品をおよそ 55 の高 速ラインで組み立てています。シチズングループは、国際市場に

供給する工作機械や CNC の製造においても主要プレイヤーであ るため、高度に統合されています。そうした機械に使われている 油でさえ「自社の製品」です。

最新の技術革新は、組立ラインで発生した問題や欠陥をデジタ ルで検出するというものです。これは一定の間隔で行われ、問題

や欠陥が検出されるとアラーム音が鳴り、当該部品が別の組立ラ インに破棄されます。自動化への新たな一歩が見えてきた当工場

で今流行っている言葉は「モノのインターネット(IoT)化」です。


このミヨタ工場では、1∼ 2 名のオペレーターで、長さ50メートルの組立ラインを管理できます。

一目見て驚くのは、ライン 周辺で働く従業員の数が きわめて少ない点です。

長野県佐久市にあるミヨタのムーブメント組立工場の航空写真。

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変 日 化 本 を の 望 時 む 計 づ くり

分 析

セイコー、シチズン、カシオは、

数年前には考えられなかったような 価格でモデルを販売しています。

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980 年以降、国家としての日本のイメージは大きく変化しまし

た。安価な電子製品や自動車を大量生産する工業国から、島国

で 受 け 継 が れ て き た 独 自 の ラ イ フ ス タ イ ル と 伝 統 を 持 つ、

ファッションやデザインの最先端を行くきわめて洗練された国家へ

と躍り出ています。そのため、非常に多くの観光客がこの国を訪れ、 多くの西洋のティーンエイジャーが日本独自の文化に魅了されてい

ます。国内の腕時計産業もイメージを変えようとしています。 「技術」 のイメージから、より「感性を重視した」ブランド価値(過去 20

年にわたって、スイスの時計産業で成功を収めてきたブランド価値) への転換を求める動きが強まっています。国内時計メーカー大手 3 社(セイコー、カシオ、シチズン)はそれぞれ、同じ目標を実現す

これまでの日本企業は高度な技術を売りに していましたが、より感性を重視した、 洗練されたエレガントな ブランドイメージへと

移行しようとしています。

これは技術者が中心となって

支配し続けている業界にとって、 長期的な方策です。

ることを目指して明確な戦略を立てています。腕時計産業の専門家

時 計、ASTRON( ア ス ト ロ ン ) の ハ イ テ ク 腕 時 計、

本の腕時計産業の発展に関する論文 * を先日発表しました。

PRESAGE( プ レ ザ ー ジ ュ) の 伝 統 あ る 機 械 式 時 計、

で大阪大学教授のピエール = イヴ・ドンゼ氏は、1990 年以降の日

セイコーの切り札 「セイコーは、グランドセイコーを通じて、日本の職人技とものづ

くりの伝統をアピールしています」とピエール = イヴ・ドンゼ氏は

述べています。 「当ブランドの品質が高いというイメージは日本では 浸透していますが、世界的にはまだそうではありません。グランド

セイコーは、国内市場ではロレックス、オメガ、カルティエなどと

PROSPEX( プ ロ ス ペ ッ ク ス ) の ス ポ ー ツ ウ オ ッ チ、 PREMIER(プレミア)のモダンなデザインのクラシッ

クな腕時計など、それぞれに独自のアイデンティティが あります。国内では、アシックス、ツモリ・チサト、イッ セイ・ミヤケなど、その他多くのライセンスウオッチを 展開しています。

ピエール = イヴ・ドンゼ氏は、 「リーマン・ショック後、

経営陣は新たな戦略を採用したが、その主な要素の 1 つ

すでに肩を並べていますが、国際展開は始まったばかりなのです」

は、ブランディングに焦点を絞り直し、高級市場に参入

グループと同様の戦略を採用しています。コレクション、さらに厳

をアピールするのに特に重要な役割を担っているのは、

ピエール = イヴ・ドンゼ氏の見解では、セイコーはスウォッチ 密にいえばブランドには多様性があり、グランドセイコーの高級腕

*ピエール =イヴ・ドンゼ、デイヴィッド・ボレル 「技術革新とブランドマネジメント:1990 年 代以降の日本の腕時計産業」 、Journal of Asia-Pacific Business、Routledge、2019 年 4月

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することであった」と記しています。海外で同社の魅力

プレザージュとグランドセイコーの 2 つのブランドです。


エレガンスコレクションに は、GRAND SEIKO(グラ ンドセイコー) を象徴する 岩手山パターンを施した 新しい 「透漆」 のダイヤル が採用されています。

シチズンの買収戦略  シチズンは企業買収を行うことを選択し、アメリカのブラ ンド Bulova(ブローバ)を 2008 年、スイスのブランド La

Joux-Perret(ラ・ジュー・ペレ)、Prototec(プロトテック)、 Arnold&Son(アーノルド & サン)を 2012 年、Angelus(ア

ンジェラス)を 2015 年、Frederique Constant(フレデリック・ コンスタント)、Alpina(アルピナ)を 2016 年に次々に買収 しました。「これにより、急速な成長を実現できます」とピエー ル = イヴ・ドンゼ氏は述べています。「シチズン本社は、これ

らのブランドを分散して管理することを選択しました。これ により、各ブランドに高い自主性を与えることができます」

日本国内では、シチズンは「Campanola(カンパノラ)」ブラ ン ド だ け で な く、Paul Smith( ポ ー ル ス ミ ス )、Margaret Howell Idea( マ ー ガ レ ッ ト ハ ウ エ ル ア イ デ ア )、Outdoor

Products(アウトドアプロダクツ)、Beauty&Youth(ビューティ &ユース)などのブランドの腕時計のライセンスウオッチを 展開しています。

「シチズンのブランドポートフォリオは 2 つの要素からなる

戦略を表している。定評のあるブランドを買収して中上位の グローバル市場に進出するという目的と、広範なサブブラン ドを介して国内市場のすべてのセグメントを独占するという 願望だ」とピエール = イヴ・ドンゼ氏は記しています。

シチズン エル

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当社の記録にもあるように、1990 年代 は日本の時計づくりが活況を呈した時 期でした。2004 年には、 『ヨーロッパスタ ー(Europa Star) 』 誌は、日本のSEIKO (セイコー) がハイエンドブランドに位置 づけられていることを強調しました。

『ヨーロッパスター』1991年 2月号

『ヨーロッパスター』2004 年 3月号

起業家精神を変える?

カシオ、G-SHOCK の威力

日本の腕時計業界のもう一つの特徴に、単刀直入なブラン

日本の技術を最も象徴する腕時計でさえ、日本の工芸技術

ディングが歓迎されているグローバル時代において、腕時計 の技術的(そして、しばしば残念なほど不可解な)名声に強

を取り入れつつ、デジタル表示よりもアナログ表示をはるか に多く使うようになってきています。

くこだわることが挙げられます。

「2004 年、カシオは販売不振に直面したことから、高品質の

功させるために、もっと国際化すべきだ」とピエール = イヴ・

た。それまでは、伝統的にデジタル製品に重点を置いていた」

「日本の腕時計メーカーは、ラグジュアリー路線への拡大を成 ドンゼ氏は述べています。時計産業史を専門とする彼は、セ イコーの例を挙げています。

プロクター・アンド・ギャンブルと資生堂でマネージャーを

務めた経験を持つカーステン・フィッシャー氏が、2015 年、セ

イコーホールディングスの取締役に外国人として初めて就任し

ました。力強い変化が起きていると考えられます。また、日本

の新生ブランドである Knot(ノット)は、日本の技術よりも日

本文化を生かしています。ノットでは、顧客が文字盤とストラッ

プを自由に選ぶことができます。手頃なニッチマーケットにお

いて、日本流の「生活様式」を伝えることを目的としています。

アナログ腕時計の分野に参入するという新しい戦略を採用し

とピエール = イヴ・ドンゼ氏は記しています。「同社は腕時計 に新しい技術(太陽電池、電波受信機、GPS など)を搭載す

るための研究開発施設を開発し、OCEANUS(オシアナス)、 EDFICE(エディフィス)、SHEEN(シーン)などの新ブランド

を立ち上げました。このような状況の中、カシオは 2011 年 に G-SHOCK のブランドを刷新し、スポーツ用アナログ腕時計 に新しい G-SHOCK の機能を搭載しました。現在、G-SHOCK の全モデルの約半数がアナログモデルです」

国内市場での優位性

とはいえ、すぐにすべてがブランディングを中心に展開さ

常に世界市場に目を向けざるを得ないスイスの時計メー

ドマネジメントへの意識が高まっているからといって、日本

内市場に頼ることができます。ピエール = イヴ・ドンゼ氏は、

れるようになると考えるのは間違いです。「このようにブラン の腕時計メーカーが成長の基盤としての技術革新をあきらめ

たことを意味するわけではありません」とピエール = イヴ・ ドンゼ氏は強調します。「ソーラー時計の特許出願のデータ ベースは、シチズンとセイコーをはじめとする企業が、2000 年からソーラー時計の研究活動を追求し発展させてきたこと

を示しています」このように、日本の時計づくりは、日本の

文化や工芸をより重視することと、それを歴史的に成功させ てきた技術研究の追求とのバランスを突き詰めています。

カーとは異なり、日本のブランドは世界需要が低下しても国 2000 年代半ば以降に国内市場の重要性が高まっていることに

注目しています。「日本時計協会のデータによると、2015 年

に日本で出荷された腕時計の全世界出荷数に占める割合は 45% を占め、同協会がデータの公開を開始してから最も高い 数値を示している」

2015 年に日本で販売された腕時計の平均価格は 13,905 円

で、海外に出荷された腕時計の平均価格は 2,646 円でした。 2000 年は、それぞれ 3,728 円と 1,351 円でした。日本ブラ

ンドは最初に国内市場で価値が高まり、それが実験的な役割 を果たしたのち、国際的に拡大したといえます。

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知 日 る 腕 本 人ぞ 時 の 知 計 る の 秘 密

レ ポ ー ト

ミナセは、日本の技術革新が自然への

北日本の秋田県には数多 くの温泉が存在します。

革新的なサプライヤーとしてのはじまり

賛美にもなり得ることを示す好例です。

しかし、需要の増加に応えるには高度な技術を持つ人材が不

この家族経営の企業を訪問し、

在では、45 名ほどの従業員が、専用工具の製造会社である協

私たちは日本列島北部の秋田県にある 日本の時計製造の将来を

垣間見ることができました。

ナセの工房は、日本北部の秋田県の岩場と温 泉地に囲まれた川沿いにあり、透明感や光の

揺らめき、魅力的なケースの構造など、同社

はこの地に自らのアイデンティティを見つけ出しま した。日本という国の技術革新の伝統に完全に沿っ

た製造工具を使用することは、時計学的な意味で「自 然への賛美」といえます。

足していたため、1973 年に秋田県に会社を移転しました。現 和精工 * に勤務しています。生産品は、時計ブランドのみならず、 自動車や半導体などの産業向けに欧米に輸出されています。

協和精工が専門としているのは、特定の形状を持つ切削工具

の製造であり、その形状によって、2 つの操作を一度に実行で きます。この強力な工具は、時計のリューズを取り付けるスペー スに穴を開けるために時計職人が使用します。当初、同社はこ

の工具の販売のみを行っていましたが、やがて複数のブランド の時計ケースの切削作業を行うようになりました。そして、そ うしたブランドに代わって直接時計ケースを製造するようにな

りました。同社の初期の顧客の 1 つが、他でもない ORIENT(オ リエント)でした。

1964 年に現 CEO の鈴木豪氏の父である鈴木耕一

氏が切削工具を発明したことがすべての始まりでし た。この切削工具は今でもミナセのロゴに見ること

ができます。耕一氏は 15 歳という若さでエンジニア リングに魅了され、故郷を離れて東京の技術工具製

造工場で働き始めました。そして数年後、首都東京 に自分の会社を設立しました。

* 現在、協和精工は年間約12 万個の工具を製造しており、1つ あたりの価格は50∼100 米ドルの範囲です。タングステンを基 本素材としていますが、 「アタックスミス」 シリーズには、多結晶 ダイヤモンドや窒化ホウ素などの革新的な素材も採用しています。

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5 Windowsコレクションは、ミナセの 主力商品です。5 枚のサファイアガラ スを通して覗く世界、ムーブメント、立 体感のある文字盤、そして針は、宇宙 を浮かんでいるかのように見えます。

時計会社の誕生  協和精工から分離独立したミナセは 1988 年、秋田県皆瀬の

地に、時計ケースのサプライヤーとして誕生。現在は従業員 25

名を雇用する企業に成長し、時計ケース事業は日本企業数社の

ために今なお継続されていますが、2005 年には自社の腕時計

ブランドを立ち上げています。また、これにより、切削工具の 製造から完成品としての腕時計の製造に進化を遂げています。

ミナセでは、平均価格 3,000 ∼ 4,000 フランの腕時計を年間

ザラツ研磨技術

600 ∼ 700 本製造しています。国際的な評価を高めることを目

ミナセは交換可能な部品というコンセプトを導入していま

ルン、アブダビ、パリ)の販売拠点を持っています。

ては腕時計を簡単にカスタマイズすることができます。部品交

指して、 現在日本国内に 35 カ所の販売拠点と、 国外に 3 カ所(ベ  ミナセの生産品は入念に練られた構造を備えたモデルを特長

とし、独創性の高い基本原則に基づいています。ケースをさら

に別のケースに埋め込むことにより、奥行きと透明性を兼ね備 えた印象を与えています。代表的な製品ラインには、フォーマ

ルな優雅さを感じさせる Divido(ディバイド)シリーズ、スク エア型の Horizon(ホライゾン)シリーズ、そしてブランドの

スピリットを最もよく体現している 5 Windows(ファイブウィ

ンドウズ)シリーズがあります。また、Technotime(テクノタ

イム)のムーブメントをベースにしたハイエンドモデルである、 7 Windows(セブンウィンドウズ)という 40 本の限定版も発 売しています。

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す。これにより、さまざまな基本構成部品を組み合わせ、ひい

換にこのシステムを用いることは、アフターサービスにおいて もメリットがあります。

ミナセならではのもう一つの特長は、ケースを磨く際に「ザ

ラツ」研磨という技術を施している点です。ケースは手作業で 作られているため、艶やかさと繊細さを兼ね備えた構造になり ます。ストラップも自社で製造しています。

ミナセの製品は洗練された職人技で作られており、絶えず進 化する日本の時計づくりにおいて、注目し続けるに値するブラ ンドの一つとなっています。実際、時計づくりのコングロマリッ

ト(複合企業)が多数派を占める国で勝負できている独立系企 業はほとんどありません。


“Switzerland to stop producing mechanical watches? (…) After sinking slowly for five years, we have now touched the bottom. Everything seems to have been in league to destroy the very foundation of what was once a flourishing and seemingly indestructible industry.” (Europa Star, issue 119, 1980)

Time is the ultimate master.

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